あの世への扉

 夕食の片付けをしていると、突然に窓外が薔薇色に包まれました。
この世のものとも思われない空気に、一瞬たじろぎます。
そう、ここ長崎は今宵、精霊流しの夜。
昨日一日続いた豪雨と雷は、今日のためのお清めだったのでしょうか。
この世とあの世を隔てている扉が開き、我々と交流した御霊が海からお船に乗って、再びあの世へと旅立ちます・・・。
家の前の浜辺からも、提灯で賑やかに飾られた舟が六艘、それぞれのご家族の想いも一緒に乗せて、静かに波間に消えてゆきました。
今日はまた、終戦記念日。
日本中で祈りが捧げられた一日でした。
長崎へ引っ越してからは益々、憲法九条の重さがひしひしと感じられます。
日本人が72年前、戦争を放棄し、戦争をしないことを誓った。
核を持ち込まず、核を作らず、核を持たないことを誓った。
私たちは戦争をしない国に住んでいることを、当たり前だと思って育って来ました。
しかしそれが揺ぎ始めた今、
我々の親の世代の成し遂げた平和への努力が、どんなに大きかったかと思うのです。
あの戦争が悲惨だったからこそ、多くの人々が言葉に尽くせない辛酸を舐めたからこそ、保たれていた平和。
その苦しみを体験された方々が、次第に消えようとしている今こそ、平和というものは、得がたい奇跡なんだと再認識しなければならない。
72年前に、我々日本人が新しい人間の在り方へと進化を誓った、あの宣言を諦めては、いけない。
人間は脆くて弱いものです。
だからこそ、戦わない強さを。
あの世へと戻る御霊に、静かに誓った1日でした。
平和、とは何だろう?
もう一度、考えたい。
先ずは足元。
我が家の平和から努力します…
れべいゆ